2025年の欧州はMiCAの本格運用で、デジタル資産の取り扱いが制度面から実務フェーズへ進みました。
RippleはスイスのMetaco買収で得たカストディ基盤Harmonizeを中核に、Genevaを拠点とした実装支援を拡大しています。
この記事では、金融機関の視点で必要な論点にだけ焦点を絞ります。
第一に、Harmonizeが鍵管理とポリシー運用をどう標準化し、監査対応の工数をどこまで削減できるのか。
第二に、サブカストディや取引所、決済ネットワークとの接続性が、実際の運用リスクとオペレーションにどう効くのか。
第三に、MiCA準拠の体制整備と欧州各国ルールへの整合を、Rippleはどのように支援するのか。
読み終える頃には、自社のユースケースに対してHarmonizeが適合するかを判断するための材料がそろい、評価すべきチェックポイントをすぐに洗い出せるようになります。
投資助言ではなく、導入可否を検討するための実務ガイドとして活用してください。
概観 Rippleのカストディ戦略は二層構造
上位層は規制ライセンスを持つ信託会社によるカストディ運用、下位層は大手金融機関向けのオーケストレーション基盤Harmonizeである。
後者はスイスのMetacoが提供し、Rippleは2023年に約250百万ドルで買収した。
主要行が採用する実績を背景に、機関投資家の運用要件に沿った鍵管理とガバナンスを実装できる点が特徴となる。
2024年には米国のStandard Custody & Trustの買収がクローズしており、規制プラットフォームと技術基盤の両輪がそろった。
スイス拠点の位置づけ Genevaが欧州ハブへ
RippleはGenevaにオフィスを開設し、欧州の機関向け事業とカストディ関連の採用拡大にフォーカスしている。
公式ブログでも欧州実装の進展とGenevaオフィスを位置づけており、地域営業とパートナー協業の基盤になっている。
加えて、現地投資促進機関の公開情報ではGeneva選定の理由として国際金融都市としての近接性と、Metacoの中核があるLausanneへの地理的利点が示される。
技術の要 Harmonizeが解く運用課題
Harmonizeはデジタル資産の保管と運用を統合管理するオーケストレーションレイヤーであり、鍵管理のHSM連携、ポリシーエンジン、サブカストディ連携、トークン化や決済接続までを単一点で制御する思想を採る。
実装面では、銀行で一般的なHSMを信頼の根として用いるアーキテクチャが前提となる。
HSMは暗号鍵の生成や署名を耐タンパ筐体内で完結させる専用モジュールで、金融機関のコンプライアンスに合致しやすい。
連携実績としては、Citiのデジタルアセットカストディ構築でHarmonizeが選定され、独DZ Bankも採用を公表している。
さらにStandard Chartered系のZodia CustodyがMetacoのサブカストディネットワークに統合しており、グローバルな相互運用性が強化された。
アーキテクチャ簡易図
欧州での制度整備とRippleの足場
Rippleは2023年にアイルランドでVASP登録を取得しており、EEAでのMiCA移行を見据えた土台を整備してきた。2025年にはMiCAライセンスの取得方針も表明している。
MiCAは2025年から本格的にCASPのライセンス申請および移行期間が進行しており、既存事業者は各国の移行規則に従いながら運営を継続できる。
RippleにとってはGenevaからの営業とアイルランド登録の活用で、EEA域内のパートナー銀行との商談を進める実務上のメリットがある。
最新動向 安定通貨とトークン化の接点
2024年にRippleはUSD連動型の安定通貨計画を公表し、準備資産と月次アテステーション方針を示した。
2025年9月にはDBSとFranklin Templetonとの連携が報じられ、Rippleの米ドル安定通貨とトークン化マネー・マーケット・ファンドの相互運用が前進している。
基盤チェーンとしてXRP Ledgerが活用され、カストディとトークン化の接続点が具体化しつつある。
主要導入事例の抑えどころ
Citi デジタル資産カストディの中核技術としてHarmonize選定
DZ Bank デジタル資産保管の実装でMetaco採用
Zodia Custody サブカストディ接続で相互運用性を拡張
BBVA Switzerland スイス拠点でHarmonizeを活用しサービス強化
比較表 Rippleのカストディ堅牢化ロードマップ(通常表示)
年月
2023年5月 Metaco買収 技術基盤の取り込み 欧州金融機関の導入実績を獲得
2024年6月 Standard Custody買収クローズ 規制プラットフォームの強化 米国信託ライセンスで発行体や保全の選択肢拡大
2024年4月 安定通貨計画を公表 準備資産の開示方針 市場流動性と実需接続の前提整備
2024年から2025年 Geneva拠点拡充 欧州での営業と実装支援強化
2023年から2025年 欧州登録とMiCA方針 EEA展開の制度基盤を整備
Rippleの欧州カストディ戦略 年表と影響分析
年月 | 出来事 | 意味 | 欧州への影響 |
---|---|---|---|
2023年5月 | Metaco買収 | カストディ技術の内製化と実績の取り込み | 欧州大手の導入実例を営業資産化 |
2024年6月 | Standard Custody買収クローズ | 規制プラットフォームの獲得 | 信託構造活用で発行体・保全の選択肢拡大 |
2024年 | RLUSD発表 | 準備資産と開示方針の明確化 | トークン化・決済との接点が強化 |
2024年〜2025年 | Geneva拠点拡充 | 実装支援とパートナー連携の加速 | EEA内での商談・導入を前進 |
2025年 | MiCA本格運用 | CASPライセンス移行の実務化 | カストディ標準化の追い風 |
実務ガイド 金融機関が確認すべき4点
鍵管理の実装 HSM連携と鍵ライフサイクル管理の監査適合
ポリシーと権限 業務分離と緊急時手当のワークフロー多層化
接続範囲 取引所 決済 サブカストディのカバレッジ
規制整合 MiCA準拠と各国規則との相互運用
大手行の実務では、セキュリティとスケーラビリティ、既存オペレーションへの統合容易性が最重視される。
Citiは「既存のグローバル運用・リスク枠組みに乗せて拡張できる点」を強調し、DZ Bankは「セキュリティと将来要件への適合」を評価している。
したがって、評価軸は鍵管理の実装、権限ポリシー、接続範囲、規制整合の4点で妥当性が裏づけられる。
まとめ
欧州がMiCA本格施行という転換期に入る中、Rippleはスイス発のHarmonizeを軸に、カストディとトークン化の二本柱で足場を固めつつあります。
重要なのは、これを単なる技術導入ではなく、業務プロセスとガバナンスを再設計する機会として捉えることです。
鍵管理の実装、権限ポリシー、接続範囲、規制整合という四点を基準に、自社の要件に照らして実装難易度とリスクを定量化してください。
今後は、安定通貨やトークン化証券との相互運用が一段と進み、運用設計の差が収益性とコンプライアンスコストに直結します。
次の一歩として、対象資産クラスと想定フローを簡潔に整理し、評価項目の優先度付けから着手しましょう。
本記事は情報提供を目的とし、投資判断は各自の責任で行ってください。
簡易用語集
HSM 専用ハードで暗号鍵を保護するモジュール 金融機関の監査要件で一般的
サブカストディ 上位カストディアンが他のカストディと接続して資産を保全する仕組み MetacoはZodiaと連携を公表
Harmonize Metacoのオーケストレーション基盤 鍵管理 ポリシー接続を一元管理
VASP登録 EUでのMiCA移行に先立つ各国の登録制度 Rippleはアイルランドで登録済み
MiCA EUの包括的な暗号資産規制 2025年から本格運用と移行期間が進行
RLUSD Rippleの米ドル連動安定通貨 2024年に計画が公表され運用連携が進展