レジ前やオンラインショップの決済画面で、ある日突然「このカードはご利用いただけません」。
身に覚えのない不正も、延滞も、限度額オーバーもないのに決済が拒否される——そんな経験はありませんか?
いま日本では、クレジットカード番号を総当たりで狙う「クレジットマスター(BIN攻撃)」や、少額取引で番号の有効性を調べる「カードテスティング」が急増。
カード会社はこれらに対抗するため、不正検知システムを強化しています。
その副作用として、善良な利用者まで誤検知で取引が止められる現象が広がっているのです。
2024年、日本でのクレジットカード不正利用被害額は555.0億円と過去最高を更新。
その9割以上が「番号盗用」型です。
2025年も増加傾向が続いており、対策は待ったなしの状況です。
本記事では、最新の被害実態と攻撃の仕組み、そしてあなたのカードを守るための具体策を、実務的かつ平易な言葉で解説します。
1. まず事実確認:日本で今、何が起きているか
1-1. 被害の実態(最新データ)
- 2024年の不正利用被害額:555.0億円(日本クレジット協会公表)。
- 手口の割合:番号盗用型が9割超。
- 2025年1〜3月期:193.2億円と前年同期比大幅増。
この数字は、物理的にカードを盗む「偽造カード」よりも、オンラインでカード番号を悪用するケースが圧倒的に多いことを示しています。
1-2. 総当たり(クレジットマスター/BIN攻撃)・カードテスティングとは
クレジットマスター(Credit Master)攻撃
発行会社番号(BIN)と有効期限の組み合わせを大量生成し、ECサイトで少額決済を試すことで「有効カード番号」を見つけ出す手法。
カードテスティング
窃取したカード番号が実際に使えるかを、小額取引や寄付サイト等で確認する行為。
いずれも自動化ツールやボットを利用し、短時間で大量の試行を行うため、オンライン決済加盟店に大きな負荷と被害をもたらします。
1-3. 2025年以降の制度・実務トレンド
- 経済産業省はEMV 3-Dセキュア(3DS)の導入促進を強化。
- 不正被害が多発する加盟店には、3DSの即時導入や不正検知システムの高度化が求められています。
2. 「悪いことはしていないのに決済が通らない」そのメカニズム
2-1. 発行会社の不正検知が厳格化
カード発行会社(イシュア)は、以下のような要素を組み合わせて取引のリスクをスコアリングします。
- 利用場所(国・地域)
- 金額と履歴の比較
- 時間帯・利用頻度
- 購入先のリスクレベル
これらの条件に合致すると、実際には正当な取引でも一時的に拒否されることがあります。
2-2. 3DSのチャレンジ認証と誤検知
3DSのリスクベース認証では、低リスクの場合はスキップされますが、高リスクと判定されると追加認証(ワンタイムパスワード等)が求められます。
ここで失敗すると取引は中断されます。
2-3. 事業者側の防御強化があなたの体験に与える影響
加盟店や決済代行業者は、ボット対策やアクセス制限を強化しており、その過程で一部の正規ユーザーも遮断されることがあります。
3. 今日からできる個人の実践対策
3-1. 3Dセキュア登録・設定の再確認(必須)
- 発行会社のウェブやアプリで3DS登録状況を確認。
- 認証方法(SMS・ワンタイムパスワード等)を最新化。
3-2. 利用通知とオンライン利用制限
- 決済が発生すると即時に通知されるよう設定。
- オンライン利用や海外利用をワンタップで制限可能な機能を活用。
3-3. デジタルウォレットの活用
- Apple PayやGoogle Payはトークン化(DPAN)により、実カード番号を送信しない設計。
3-4. バーチャルカードの併用
- サブスク用・単発購入用に分け、万一の被害を局所化。
3-5. 限度額の細分化
- 高額や海外利用は必要時のみ解除する設定運用。
3-6. 端末・ネットワークの衛生
- OS/ブラウザを常に最新化。
- 公共Wi-Fi利用時はVPNを併用。
3-7. 明細の高頻度チェック
- 不正を即時発見し、発行会社に異議申立て(チャージバック)を迅速に行う。
4. 個人でできる具体的なクレジットカードセキュリティ対策
4-1. 利用料金通知サービスの活用
- 目的:使った覚えのない決済を即座に察知する。
- 概要:カードで決済が発生した瞬間、SMSやアプリのプッシュ通知で知らせてくれる機能。
- ポイント:少額決済も必ず通知対象にすることで、不正利用の「カードテスティング」にも早く気づけます。
- 実務的コツ:
- 通知先は必ず日常的に使うスマホ番号やメールアドレスに設定
- 通知音やバナーを「目立つ」設定にしておく
- 海外出張時なども通知を止めない
4-2. あんしん利用制限サービス(オンライン・海外・高額利用の制限)
- 目的:不正利用が発生しやすい条件を、あらかじめ封じる。
- 概要:オンライン決済、海外決済、高額決済を個別にON/OFFできるサービス。
- ポイント:必要なときだけ解除し、利用後すぐ再びOFFにすることで、被害リスクを大幅に減らせます。
- 実務的コツ:
- 海外通販や旅行の予定があるときだけ一時的にON
- サブスク用のカードは「高額利用OFF」にしておく
- 家族カードも別々に設定を見直す
4-3. 異常検知通知サービス(Webサービス・公式アプリで設定)
- 目的:カード会社側のAIや不正検知システムが「怪しい」と判断した取引を即通知。
- 概要:取引内容を自動分析し、普段と異なるパターンを検知したらアプリ通知や電話で知らせてくれる。
- ポイント:自分が気づくより早く検知されるケースも多い。
- 実務的コツ:
- アプリの通知を「常に許可」にする
- 届いた通知は放置せず、即確認
- 海外や高額取引の予定がある場合は事前にカード会社へ申告
4-4. カード利用限度額の細分化
- 目的:万一の不正利用でも被害額を物理的に制限する。
- 概要:月額限度額や1回あたりの上限を自分で設定できる機能。
- 実務的コツ:
- ネット通販専用カードは限度額を低く設定
- 高額購入の予定があるときだけ一時的に上げる
4-5. バーチャルカードや使い捨て番号の併用
- 目的:実カード番号を守るため、取引ごとに異なる番号を使用する。
- 概要:発行から短期間で失効するカード番号や、1回限りの利用番号を発行できるサービス。
- 実務的コツ:
- サブスクと単発購入で番号を使い分け
- 不要になったらすぐ削除
4-6. 定期的な明細チェック(リアルタイム志向)
- 目的:通知だけでなく、自分の目でも異常を確認。
- 概要:毎月の請求書を待たず、アプリやWeb明細を数日に一度確認する。
- 実務的コツ:
- 金額だけでなく「加盟店名」に違和感がないか見る
- 少額・海外取引にも注目(不正の試し打ちの可能性あり)
4-7. 認証情報の安全管理
- 目的:不正ログインによるカード情報漏洩を防ぐ。
- 概要:Webサービスやアプリのパスワード、二段階認証設定を強固にする。
- 実務的コツ:
- パスワードは英数字記号を混ぜ12文字以上
- 二段階認証(ワンタイムコード)を必ず有効化
- 公共Wi-Fi利用時はVPN併用
こうした設定や習慣は、一度導入すれば継続的に効果を発揮する防御壁になります。
重要なのは、カード会社の検知力と自分の確認力を二重化することです。
5.【困ったとき用】決済拒否されたときの最短復旧フロー
5-1. まずは落ち着いて状況確認
- エラーメッセージや表示された理由をスクリーンショットで記録。
- 3Dセキュア認証や追加パスワード入力を求められていないか確認。
5-2. 3Dセキュア(追加認証)を試す
- 認証画面が表示されたら正しい方法で入力(ワンタイムパスワードやアプリ認証など)。
- 認証方法が古い設定のままなら、発行会社のアプリで更新。
5-3. 発行会社に即連絡
- カード裏面の電話番号、または公式アプリのチャット機能を使って連絡。
- 「不正検知による一時停止かどうか」を確認し、解除可能か相談。
5-4. 別の決済手段に切り替え
- 予備カード、デビットカード、モバイルウォレット(Apple Pay / Google Pay)などを利用。
- これにより買い物や予約の中断を防ぐ。
5-5. 高額・海外・初めて利用するサイトの場合は事前申告
- 事前にカード会社へ「この取引を行う予定」と伝えると、不正検知によるブロックが減る。
5-6. 再発防止のための設定見直し
- 3Dセキュアの登録状況を確認。
- 利用通知サービス・利用制限サービスを有効化。
- 不要な海外利用や高額利用枠はOFFに戻す。
5-7. 継続的に弾かれる場合は再発行も検討
- 繰り返しブロックされる場合は、カード番号や有効期限を新しくすることで改善する場合があります。
6. よくある誤解Q&A
Q. 個人情報を漏らしていないのになぜ被害に?
A. 多くの不正はカード番号と有効期限のみで行われます。
番号は総当たりや過去流出リストから悪用されます。
Q. 3DSは面倒?
A. 現在は必要時のみ発動するリスクベース型が主流です。
Q. ウォレットは安全?
A. 実番号の代わりに端末専用トークンを使用するため安全性が高いです。
7. 事業者向け:攻撃面の縮小はみんなの体験を守る
- EMV 3DS早期導入
- 反復試行の抑止(レート制限・WAF・ボット対策)
- アカウントテスティング対策の実装
8. まとめ:被害の裾野を狭めれば、誤検知も減る
クレジットカード不正利用は年々増加し、その主因は番号盗用型です。
カード会社や加盟店は検知システムを高度化し、防御を強化していますが、その結果、善良な利用者が決済拒否されるケースも少なくありません。
大切なのは、仕組みを理解し、自分でもできる防御策を生活の中に組み込むことです。
3Dセキュアの登録・設定、利用通知や利用制限サービス、バーチャルカード、ウォレット活用などを組み合わせることで、被害も誤検知も最小限に抑えられます。
今日からできる「次の一歩」
3Dセキュアの登録状況を確認
最新の認証方法に更新することで、オンライン決済の安全性が格段に向上します。
利用通知サービスを有効化
どんな少額決済も、アプリやSMSで即座に通知されるように設定しましょう。
あんしん利用制限サービスを設定
普段使わない時はオンライン決済をOFFに。使う時だけONにすることで、被害リスクを大幅に減らせます。
この3ステップを今日中に実行すれば、カードの守りは一気に強化されます。
付録【クレジットカードセキュリティ対策イメージ画像等】
下記は架空のUIを利用してのイメージ画像です。
よろしければご覧ください。
クレジットカードセキュリティ対策
UI説明図
ステップ 1:アプリホーム画面
アプリを開いて、画面下部の [設定] をタップ
ステップ 2:設定メニュー一覧
[利用通知サービス] を選択
- 個人情報
- 通知設定
- 利用制限
- 利用通知サービス
- パスワード変更
少額決済も通知対象にすることで、カードテスティングにも対応できます。
ステップ 3:通知条件設定画面
通知対象の条件を設定(例:すべて・1,000円以上)
ステップ 4:通知先設定画面
通知先を選んで設定
ステップ 5:保存完了画面
この画面が出たら設定完了!
下記は不正利用と誤検知の仕組みのインフォグラフィックです。
よろしければご覧ください。
(インフォグラフィック)
総当たりでカード番号の有効性を探る
怪しい取引を自動でブロック
善良なユーザーの決済が止められる