インフレに備えたい。けれど延べ棒は重く、保管場所も不安。
家に置けば盗難が怖いし、貸金庫も手間と費用がかかる。
そんな逡巡を断ち切る選択肢が生まれた。
手のひらのスマホに収まるウォレットへ、金の価値そのものを写し取ったトークンが届く。
分割して持てる。瞬時に送れる。
所有権の履歴は改ざん困難な台帳に刻まれる。
これが金に価値をひも付けた暗号資産、いわゆる金連動トークン。
この記事では、その仕組み、代表銘柄、失敗なく始める手順を実例ベースで解説する。
1. 金連動トークンとは
金連動トークンは、発行体が保管する現物の金に対してトークンを発行し、原則として「1トークン=金1トロイオンス」などの比率で価値が結び付けられた暗号資産です。
代表的な例にPAX Gold(PAXG)とTether Gold(XAU₮)があり、どちらも1トークンがLBMA適合の金の所有権を表す設計です。
2. ステーブルコインとの違い
一言でいうと、連動先が違う。
米ドル連動型は「価格がほぼ一定」。金連動トークンは「金の価格に合わせて上下」。
比較軸 | 金連動トークン | ドル連動ステーブル |
---|---|---|
価格挙動 | 金が上がれば上昇、下がれば下落 | 原則ほぼ一定(1米ドル付近) |
向く目的 | インフレ耐性の獲得、資産分散 | 送金の安定性、建値の固定 |
留意点 | ボラティリティあり。相場の影響を受ける | 価値はほぼ固定。値上がり益は基本見込めない |
具体例
金の国際価格が週内に+3%動けば、金連動トークンの評価額も概ね同方向に動く(手数料等は除外)。
一方でドル連動型は、同じ期間でも概ね1米ドル付近に張り付く。
3. 代表銘柄の比較表
項目 | PAX Gold(PAXG) | Tether Gold(XAU₮) |
---|---|---|
連動単位 | 1トークン=金1トロイオンス | 1トークン=金1トロイオンス |
保管・監督体制 | 専門保管庫、米州規制下の信託会社 | 欧州圏の保管、定期報告 |
対応チェーン | Ethereum(ERC-20) | Ethereum(ERC-20)、TRON(TRC-20) |
現物引出 | 高額な最低数量と手続の条件あり | 条件あり。発行体の最新案内に準拠 |
特徴 | バー照合ツール提供、透明性に強み | 複数チェーン対応、手数料最適化に適合 |
日本語での情報量 | 多め(解説記事と取扱解説が比較的豊富) | 中程度(公式資料は英語中心) |
利用者の多さ | 高い(分散型金融との相性が良好) | 高い(大手グループ発行の安心感) |
注記:上記二項目は公開情報と市場トレンドを基にした総合評価。時期と取扱先により変動する可能性あり。
PAXGはNYDFS(ニューヨーク州金融当局)の監督下にあるPaxosが発行し、各トークンが割り当てられた実在の金バーにひも付いています。
バーのシリアル番号照会ツールも提供されています。
XAU₮はTetherグループが発行し、1トークンが特定の金バー上の1オンス所有権を表します。
EthereumとTRONに対応し、2025年Q2時点の循環枚数や保管量が公表されています。
現在の価格
金連動トークン リアルタイム価格
無料で利用できるCoinGecko APIからデータを取得しています。
PAX Gold (PAXG)
Tether Gold (XAU₮)
※ 上記はCoin Gecko API を使用しています。1分ごとに価格が更新されえるようになっています。
4. まず知っておくべき最新トピック
過去には公的機関系の金トークンもありましたが、現在は状況が変わっています。
Perth Mint Gold Token(PMGT)はサービスが終了しています。
また、CACHE Gold(CGT)は2025年9月30日に強制償還期日を迎え、同日以降は金による裏付けがなくなる告知が出ています。
新規に選ぶ際は、発行体の継続性や償還方針を必ず確認しましょう。
5. 日本居住者が守るべきルール
日本国内で暗号資産を扱う場合、登録済みの暗号資産交換業者を利用することが基本です。
国内で金連動トークンを取り扱う業者は限定的で、多くは海外の取引所やDEX経由になります。
利用時は金融庁の注意喚起と登録業者一覧を確認し、未登録業者の勧誘に注意してください。
また、業者はマネロン対策等の監督指針に従う義務があり、利用者側も本人確認や取引記録の保存が求められる場面があります。
税務や会計は個々の状況で異なるため、専門家への相談を推奨します。
6. 初心者でもできる購入から保管までの手順
- 目的を決める
将来の価値保存なのか、オンチェーン担保利用なのかで最適な銘柄やチェーンが変わります。 - 銘柄とチェーンを選ぶ
少額・DeFi重視なら手数料の安いチェーン対応かを確認。PAXGは主にERC-20、XAU₮はERC-20とTRC-20に対応しています。 - 取扱先を選ぶ
初心者は信頼できる大手取引所で購入→自己保管へ移す流れが無難です。国内未上場の場合は海外CEXや流動性の厚いDEXを検討。ただし国内居住者の利用可否や規約に注意。 - ウォレット準備
メインは自己保管ウォレット。まとまった額はハードウェアウォレット等でコールド保管。 - 少額テスト送金
ガス代の確認とアドレスミス防止のため、まずは少額で送受信テスト。 - 本送金と記録
取引履歴、受領金額、送信先、メモを必ず保存。後日の税務・盗難時の証跡になります。 - 現物引き出し条件を理解
例としてPAXGはLBMAバーでの現物引出に最低約430 PAXGなどの条件があります。通常はオンチェーンのまま保有し、必要に応じて金相当額の売却で現金化するのが現実的です。 - 定期点検
発行体の監査・報告、償還条件、ネットワーク対応の変更などを四半期に一度は確認しましょう。XAU₮は四半期の保管量等を公表しています。
7. 活用アイデアと注意点
長期の価値保存用に毎月少額で積立する。
オンチェーンなら購入単位が細かく、保管料の形で年率コストが明確。
ポートフォリオの一部を金連動に置換して分散。
ボラティリティ特性がドル連動型と異なる。
DeFiでの担保利用やレンディングは可能だが、スマートコントラクトや清算リスクへの理解が必須。
最初は少額から。
8. リスクと対策チェックリスト
リスク | 具体例 | 対策 |
---|---|---|
発行体・償還リスク | プロジェクト終了や強制償還で裏付けがなくなる可能性 | 継続性の高い発行体を選び、告知や四半期報告を定期確認 |
現物引出のハードル | LBMAバー単位など最低数量・手数料が高い | 原則オンチェーン保有を前提にし、現金化は取引所で行う |
規制・事業者リスク | 未登録業者の利用でトラブル | 金融庁の登録業者一覧を必ず確認 |
チェーン・スマコンリスク | ブリッジやDeFiでの清算、コントラクト脆弱性 | 公式チェーン優先、少額テスト、コールド保管を基本 |
上記のうち、プロジェクト継続性と償還条件はとくに重要です。
PMGTの終了やCGTの強制償還告知は、発行体リスクを示す好例です。
9. よくある質問
Q1. 価格は常に金と同じに動くのか
基本的には同方向に動く。取引所の流動性、売買手数料、償還期待などで小さな乖離が生じることはある。短期売買よりも資産分散の文脈で評価すると理解しやすい。
Q2. 本当に現物の金と交換できるのか
発行体ごとに条件が設定される。多くの場合、最低数量が高く、手数料と配送条件も厳格。個人投資家はオンチェーン保有と売却による現金化を基本とし、現物引出は特殊なニーズ向けと考えると実務的。
Q3. どのチェーンで使えるのか
代表銘柄はEthereumが中心。XAU₮はTRONにも対応。送受信の手数料と混雑状況を踏まえて選定する。
Q4. 安全性はドル連動型より高いのか
一概に比較できない。発行体の規制順守、保管体制、第三者検証、償還方針を総合評価することが重要。
Q5. 日本から入手できるのか
国内での上場は限定的。海外取引所と分散型取引所の活用が現実的だが、規約と居住地制限の確認、本人確認、資金管理の徹底が欠かせない。
10. まとめと次のアクション
まずは目的を明確化し、PAXGまたはXAU₮のどちらが自分に合うかを比較。
国内ルールを理解し、登録済みの事業者情報を確認した上で取引方法を選択。
自己保管ウォレットを用意し、少額テスト送金→本送金→記録保存を徹底。
発行体の報告や償還条件を四半期ごとに点検。終了・償還告知には即対応。
まずは1万円相当の少額から、ERC-20またはTRC-20の送受信テストを実施。
発行体の公式ページで最新の償還条件と保管報告を確認。
リスク管理用の記録テンプレートを作成し、取引履歴と保有先を一元化。
初心者がつまずきやすい点と対策
目的の明確化。
価値保存なのか、担保活用なのかで銘柄とチェーンが変わる。
少額テスト送金。
初回は必ずテストを実施。
自己保管の基本。
まとまった額はコールド保管で分散。
発行体の報告確認。
四半期ごとに供給と保管の更新を点検。
【追記】国内ユーザー注目の「ジパングコイン(ZPG)」
日本居住者にとって、もう一つ注目すべき金連動トークンに「ジパングコイン(ZPG)」があります。
これは三井物産デジタルコモディティーズ株式会社が発行しており、日本の暗号資産交換業者を通じて入手できる点が大きなメリットです。
- 国内の取引所で安全に購入できる
- 日本企業が発行している安心感
ただし、PAXGやXAU₮と比較して流通量が少なく、DeFiなどの活用には向いていないため、主に「国内で金に連動する資産を手軽に持ちたい」という目的の方に適しています。
免責事項
本記事は、金連動トークンの情報提供を目的としており、特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。
また、本記事の内容は、金融、投資、税務、または法律に関する助言を意図したものではなく、個別の状況に応じた専門家による助言に代わるものではありません。
【投資に関するリスク】
暗号資産は、価格変動、流動性の低下、サイバー攻撃、規制の変更など、様々なリスクを伴います。
金連動トークンも例外ではなく、金価格の変動だけでなく、発行体の信用リスク、スマートコントラクトの脆弱性、現物引出の困難性といった、独自の追加リスクが存在します。
【税務・法律に関する注意点】
日本国内における暗号資産の取引から生じる利益は、個人の所得に応じて雑所得として課税対象となる場合があります。
税務上の取り扱いは、個人の状況や今後の税制改正によって異なる可能性があるため、必ず税理士などの専門家にご相談ください。
また、暗号資産に関する規制は国内外で変更される可能性があり、予期せぬリスクにつながることがあります。
【情報源について】
本記事は、公開されている情報を基に作成されていますが、情報の正確性や完全性を保証するものではありません。
トークンの詳細、発行体の最新情報、現物引出条件などは、必ずご自身で発行体の公式ウェブサイトやホワイトペーパー等をご確認ください。
本記事によって生じた、いかなる損害についても、当サイトは一切の責任を負いません。
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